氏 名 : 新尺 雅弘(しんじゃく まさひろ)
生 年 : 1995年9月3日 広島県生
学 歴 : 2018年 京都府立大学文学部卒
2020年 京都大学大学院文学研究科修士課程修了
現 在 : 大阪府教育庁文化財保護課 技師
◇ 受賞論文
『古代文化』第74巻第4号、2023年3月
「近江・石山国分瓦窯からみた藤原京造瓦供給体制の特質
-藤原京造営における律令負担の考古学予察-」
◇ 受賞理由
考古学では、人が作り使ったモノあるいは人の周辺に存在する環境など多様なコンセキを分析
することで研究している。これらに共通するのはそれのみで何も語ってくれないことである。
寡黙な資料をいかに語らせるかが重要なのである。そして文献資料や民俗資料の適切な援用も
必要だ。
本論文は古代瓦を詳細に分析しその歴史的意味を日本書紀の歴史叙述を援用し論理的にまと
めている。論文の目的を藤原宮にも瓦を供給していた瓦窯の検討を通じて藤原宮の造瓦体制の
特質について考察することとし、地方の古代瓦窯を足掛かりに日本古代政治経済史に切り込む
意気込みがある。
古代瓦の生産地と供給地との関係は先学研究が本論の前提となっている。それに加え、瓦当
面に残されたの笵傷の子細な観察と詳細な分析が特筆できる。軒瓦の時間的な変化を笵傷の微
妙な変化を観察することで見出す。資料を実見するこの作業は考古学研究の基本であるもの
の、多くの時間をかけて大量のデータを的確に整理してまとめるという、力をつぎ込んだ笵傷
の詳細な組列関係を明らかにできたことに“若さ”を感じる。
そして、藤原宮での使用状況を整理し、近江産瓦の供給過程を笵傷の進行状況が整合するか
否かの検討から天武末年に限定した推論した論理はとても斬新である。さらに石山国分瓦窯操
業年代を絞り込む等、近江国分瓦窯が近在の国昌寺への瓦供給のために開窯したことを明らか
にし、その歴史的意味を古代の社会制度に求めた点は非常に重要だ。
その供給が後の調の制度に先行するような「貢納」的性格を持つとした点で、古代国家成立
期におけるモノの流れの一形態を明らかにしたのである。いわば古墳時代的な手工業生産から
律令的な収奪形態に移行する試論である。このような供給体制が特殊なのかそれともある程度
敷衍化できるのか、さらなる論の深化が期待できる可能性をもっている。
◇ 主な著作・論文等
・「近江大津宮周辺における瓦生産の実態」(『日本考古学』52号、日本考古学協会、2021年)
・「初期瓦生産における王権の技術労働力編成」(『史林』第106巻第2号、史学研究会、2023年)
・「変形忍冬唐草文軒平瓦6647C・Fに関する基礎的考察」(『考古学研究』第70巻第2号、考古学
研究会、20 23年)