講師紹介と講座内容

講座名:古都京都の近代
講師名:高木 博志(たかぎ ひろし)(京都大学人文科学研究所名誉教授)
※新規講座
◆講師自己紹介 京都大学人文科学研究所名誉教授。研究テーマ:近代の文化史。
古都京都・奈良がいかに日本古代の起原や「日本文化」の象徴として創り出されてくるのか、近代史の立場から研究している。現在、先進国において君主制が少ないなかで、天皇制の存続に「伝統文化」(古社寺・桜の吉野山・天皇陵・皇室儀礼・賀茂祭など)が果たしてきた役割を歴史学から考えている。また近代京都の光と影に関心があり、たとえば昭和戦前期に全国で一番、芸娼妓の人口比が高かった京都の「買春観光」についても研究している。近年では、富岡鉄斎・竹久夢二・秦テルヲなどの画家を通して「社会を描く」営みを追求している。四半世紀にわたり、学生との東山の花街や神武天皇陵と洞部落移転などの辛口フィールドワークを「ブラタカギ」と称し行ってきた。
つまらない小説読み、美術館めぐり、映画・ドラマ鑑賞、旅行等、趣味は雑食。
◆講座の内容紹介・受講される皆様へ 古代学協会では近代史の講座はまれなので、既存の京都イメージを壊すことからはじめたい。
平安朝の貴族文化がいかに日清・日露戦争期の「坂の上の雲」の時代に創り出されてきたか、町衆の自治や安土桃山の京都イメージが、1910年の韓国併合を契機として「帝国」の時代に過去への憧れとして現れることなど、従来の京都イメージを相対化してみたい。まずは江戸時代の観光スポットとしての京都御所のありようから、明治2年(1869)の東京遷都を契機とする天皇の引っ越しに至る過程。その衰退からの復興が、ロシアやオーストリアやイギリスといった列強の君主制の「伝統文化」の保存に学んだことを明らかにしたい。そして貴族文化の国風文化や平等院鳳凰堂を称揚し岡崎に平安神宮を創建する日清・日露戦間期、大正期には安土桃山時代が顕彰されザビエル画像など南蛮・キリシタン遺物が発見され、国画創作協会で土田麦僊らは桃山風の絵画を描き、京都に住んだ夢二は島原や宮川町に耽溺しキリシタン画題を描いた。
◆講座スケジュール
5回講座 金曜日 13:00~14:30 ※8月は休講月です。
第1回 4月16日(金)
内容:江戸時代の京都御所をめぐる天皇のあり方と観光。京都御所の九門内の構造、宮中年中行事・大嘗祭の特色、庶民に開かれ身近に存在した近世天皇、京都最大の観光スポットであった京都御所などを考える。
第2回 5月21日(金)
内容:明治維新と京都。明治2年(1869)東京遷都から1883年岩倉具視の京都御所保存策まで、国際社会とのかかわりで文明開化から「伝統文化」回帰への道筋を考える。古都京都の「伝統文化」には、たとえば古都モスクワや、ハプスブルグ家のウィーンといった同時代の君主制が影響を与える。
第3回 6月18日(金)
内容:1895年(明治28)平安遷都千二百年紀念祭・第四回内国博覧会から大正期の大衆社会状況へ。岡崎公園は、北の平安神宮は「伝統文化」を象徴し「細雪」のしだれ桜が植えられ、南の博覧会場・美術館・動物園には近代・文明を現すソメイヨシノが群として疏水を飾る。そして伝統と近代の二つの性格をもった古都京都の20世紀が始まる。
第4回 7月16日(金)
内容:戦前の奈良女子高等師範学校が修学旅行で訪ねた京都・宇治・嵯峨。京都の名所や古社寺の近代を考える。たとえば嵯峨の祇王寺や滝口寺は20世紀の建造であるが、『平家物語』の悲恋の古典世界が演出された。宇治は江戸時代には源頼政が自刃し武者が先陣を争う雄々しい場であったのが、20世紀には国風文化・『源氏物語』・貴族の別業へと、イメージが書き換えられてゆく。
第5回 9月17日(金)
内容:大正期、竹久夢二がみた京都の光と影。夢二は1917年(大正6)から2年余、京都の東山に住む。最愛の彦乃と過ごした、人気絶頂の夢二の京都時代には、大正期の桃山文化、キリシタン文化への憧れとともにロマン主義が花開いた。その一方で夢二は宮川町で登楼し、島原・新京極に遊ぶ。芸娼妓の人口比が日本一多く、京都府が税収で潤った実相にも迫る。