講師紹介と講座内容

講座名:インダス〈文明〉論―最新研究で解き明かす人類史
講師名:小茄子川 歩(こなすかわ あゆむ)(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科特任准教授)
※新規講座
◆講師自己紹介 1981年宮城県生まれ。デカン大学院大学考古学学科 Ph.D. 課程修了(Ph.D.)。日本学術振興会特別研究員PD、人間文化研究機構総合人間文化研究推進センター研究員を経て、2022年より現職。専攻は南アジア考古学/比較考古学(文化人類学)。著書『インダス文明の社会構造と都市の原理』(同成社)で、第6回日本南アジア学会賞受賞。共編著に『社会進化の比較考古学――都市・権力・国家』(雄山閣)、『考古学の黎明――最新研究で解き明かす人類史』(光文社新書)、共著に『NHK 3か月でマスターするMOOK もっと深く知る 古代文明』(NHK出版、近刊)、共訳書にデヴィッド・ウェングロウ著『文明論――古代近東と西洋の未来』(以文社、近刊)。
2008 年度・2010年度インド政府招聘留学生としてインド・プネーに留学。それ以来、おもにインドで考古学調査を続け、インダス〈文明〉社会のあり方を人類史にただしく位置づけるべく日々奮闘中。〈文明〉とは何か、と問い続けています。現在、そのテーマでの依頼にもとづき、新書を執筆中です(楽しみにお待ちください!)。
将来の目標は、インドカレー屋さんのオーナーになること。年2〜3回のインド出張中は、スパイスの研究とカレーの食べ歩きにも余念がありません。趣味は、ガネーシャ(頭部が象で、身体が人間のヒンドゥー教の神様)神像とインドのおもしろ雑貨の収集、そしてランニング(賀茂川沿いをよく走っておりますので、見かけましたら気軽にお声掛けください!)。
◆講座の内容紹介・受講される皆様へ 紀元前2600〜1900年頃に、現在のパキスタンとインド北西部を中心に興亡したインダス〈文明〉。古代都市としてのモヘンジョダロやハラッパーなどが有名であり、その特徴をまとめると次のようになります。
〈都市〉や文字(未解読)、印章、おもり、ビーズなどの工芸品、そして外部社会(南メソポタミアなど)との限定的な接続の痕跡は存在します。
しかし中央集権的な社会構造、王や王墓、明確な神殿、労働集約的な灌漑事業、特定穀物の偏重大量生産、極端な集住、富の累積的集中、豪奢な副葬品をもつ墓、武器・軍隊・戦争、社会全体にいきわたるような強力な宗教などの痕跡は不在なのです。
もちろん、社会の階級差や貧富の差はあったものと考えられます。しかしそれが固定化した支配や権力、あるいは暴力の構造には結びつかないような仕組みをもっていた古代〈文明〉社会。それを長い時間をかけてつくりあげたのは、とても豊かなインダス平原に住んでいた人びとのボトムアップ式の〈政治〉であったと考えられます。
当講座では、強大な権力や暴力の構造をもたなかったインダス〈文明〉社会のあり方を、多角的に掘り下げてみます。
さらに、人類社会は右肩上がりに進歩・発展を続け、やがて文明や国家にいたるものだ、というような「進歩史観」、そしてそれによってがんじがらめにされているかのような、これまでの文明史観・人類史観を見直してみます。
その思考実験は、人類史の多様なあり方を、わたしたちに教えてくれるはずです。また古代〈文明〉研究の成果から、閉塞してしまった現代社会のオルタナティブを想像・創造するためのヒントを探る作業ともなるかもしれません。
◆講座スケジュール
月1回 5回講座 水曜日 13:00~14:30 ※8月は休講月です。
第1回 4月15日(水)
内容: 文明史観・人類史観、そしてインダス文明についてのわたしたちの「常識」
わたしたちの「常識」となっている「進歩史観」、そしてそれにもとづく文明史観・人類史観とは、いったいどのように形成されたのか? そしてなぜ、そのような文明史観・人類史観を唯一のものとして考えてしまうのか? 第1回は当講座の導入回です。インダス文明理解の「常識」とともに、既存の文明史観・人類史観の諸問題について理解を深めます。講師がなぜ、文明や都市などの用語を、〈文明〉などと括弧つきで表記すのかも、重要なポイントです。
第2回 5月20日(水)
内容: 大規模な灌漑をしなかった人びと、「集住」しなかった人びと
第2回では、インダス〈文明〉が興亡したインダス平原の〈状況〉について理解を深めます。〈状況〉とは、生態学的な状況や歴史的・社会的・文化的な状況を総合した用語です。とても豊かなインダス平原で、当時の人びとは、いかにして盤石な地域社会・文化をつくりだし、それらを維持していたのでしょうか? 〈都市〉誕生以前、つまりインダス〈文明〉形成期におけるインダス平原の様相も整理します。
第3回 6月17日(水)
内容: 「伝統」のない〈都市〉、「宗教」のない〈都市〉
第3回では、インダス〈文明〉の起源について、南アジア最古の〈都市〉モヘンジョダロが、どこに、いつ、つくられたのかを整理しながら考えてみます。そして〈都市〉とは、いったいどういった空間であったのか? 出土した遺物・遺構をすこしマニアックに検討しつつ、理解を深めてみましょう。また未解読のインダス文字や〈都市〉における「角と植物の信仰」についても考えてみます。
第4回 7月15日(水)
内容: 「王」のいない〈都市〉
都市はつくったものの、強大な権力や暴力の構造をもたなかったインダス〈文明〉社会。そこには「王」もいなければ、「国家」とよばれる機構もありませんでした。第4回では、インダス〈文明〉社会のあり方の詳細、そして当時のインダス平原に住んでいた人びとが、なぜ、そのような社会のあり方を選択したのか、について理解を深めてみます。〈都市〉の役割、あるいは〈都市〉がつくられた理由を考えることが重要ポイントです。その際、講師が参加しているインド側最大のインダス文明遺跡ラキー・ガリーの発掘調査成果もとりあげ、インダス平原各地で展開していた地域社会文化のあり方も整理してみます。インダス〈文明〉における〈都市〉とその他の集落の関係性を考えるためです。
第5回 9月16日(水)
内容:衰退しない〈都市〉、そして〈文明〉とは何か?
最終回では、当時のインダス平原の人びとが、なぜ〈都市〉を手放したのか、が重要ポイントです。南アジアにおいて、いわゆる「国家」が誕生するタイミング・理由なども整理しつつ、理解を深めてみます。そして当講座のまとめとして、〈文明〉とは何か、を考えてみましょう。既存の文明史観・人類史観を超えて、「ただしい問い」をたてるために。

