公益財団法人古代学協会

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◇ 経  歴

氏  名:中村耕作(なかむら こうさく)
生  年:1981年(神奈川県生) 東京都在住
学  歴:2010年 國學院大學大学院博士課程修了 博士(歴史学)
現  在:國學院大學文学部助手


◇ 受賞論文

「土器カテゴリ認識の形成・定着―縄文時代前期後半における浅鉢の展開と儀礼行為―」
(『古代文化』第64巻第2号、2012年9月)


◇ 受賞理由

縄文時代の人々は、土器の形や文様の違いをどのように認識し使い分けていたのか。本論攷では、こうした分類認知をカテゴリ認識と呼び、縄文前期後半(約6000年前)の関東・中部地方を対象に、土器を用いた葬送儀礼と住居廃絶儀礼の集成・分析を行い、4段階の変遷を明らかにした。注目されるのは第3段階に生じた変化で、新たに出現した深鉢が葬送儀礼に関わるのを契機に、前段階で墓に副葬されていた浅鉢が住居での儀礼にも使われるようになる。
本論攷の大きな特色は、儀礼における土器の選択性の違いから、縄文人の土器に対するカテゴリ認識の変化を読み取る点にある。第3段階には、それまで「葬送に用いる土器」というカテゴリで認識されていた浅鉢が、「儀礼全般に用いる土器」というより汎用性の高いカテゴリで認識されるようになり、新たなカテゴリ認識の成立を看取できるという。また、この変化が当時の社会状況と関連することを指摘した点も評価される。上記の変化が顕著な北関東では、住居数の増加が端的に示すように人口増加期にあたり、伝統的で重要性の高い浅鉢を新たな儀礼に参画させ社会秩序の調整を目論んだ、と解釈する。また、直接観察できない人間の認知構造を解釈する研究では、説得性をどのように保証するかが大きな課題となる。この論文では200例を超える事例集成をもとに、土器の使い分けに一定の規則性や反復性が存在することを数量的に提示する。なお、考古資料から人間集団の認識を読み取る研究は海外でも広く行われており、数量データは海外の研究者にとり最も理解しやすい論拠である。
縄文時代の人々の認識構造に迫る先進性と、数量的データに立脚する論拠の明確性を併せ持つ本論攷は、縄文土器の象徴性に関する研究を深化させるのみならず、世界の考古学研究に貢献できる可能性も秘めている。また、中村氏は縄文土器の儀礼利用に関する体系的な研究を進め、『縄文土器の儀礼利用と象徴操作』にその成果をまとめており、縄文土器の象徴性に関する研究を総合的に発展させる研究者として期待でき、本賞の趣旨にふさわしいといえる。


◇ 主な著作・論文等

・『縄文土器の儀礼利用と象徴操作』
(未完成考古学叢書10、アム・プロモーション、2013年2月)
・『縄文時代異形土器集成図譜Ⅰ』
(編著、國學院大學文学部考古学研究室、2013年3月)