公益財団法人古代学協会

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◇ 経  歴

氏 名 : 鶴来 航介(つるぎ こうすけ)
生 年 : 1991年11月24日 愛知県生
学 歴 : 2020年 京都大学大学院文学研究科博士後期課程修了
現 在 : 福岡市経済観光文化局文化財活用部埋蔵文化財課


◇ 受賞論文

『古代文化』第71巻第4号、2020年3月 「泥除の系列」


◇ 受賞理由

日本列島の農耕社会の研究は、昭和時代初年に揺籃があり、籾圧痕土器の実例の蓄積や遠賀川式土器の成立、伝播問題などから、手探りするようにその社会像の復元に努めてきた。弥生式土器の発見がそのまま、日本史の上で、あるいは考古学上の時代区分において、大きな位置を占めていたわけではなかった。ましてや水田稲作の存在を証明する具体的な遺跡の出現は遅れ、戦前の奈良県唐古遺跡の発掘調査でまとまった木製農具類が出土し、戦後の静岡県登呂遺跡の発掘調査で水田跡がようやく姿を現し、遺構や遺物が遺跡の掌中で結合して豊かな弥生文化像構築の先駆けをなした。
木製品の研究は、爾来大きく躍進をみせたが、研究者は全体に少なく、集落・墓や土器・石器・金属器の研究に比べ地味な要素が強い。しかし、近年の木製品研究は分野を超えた横断的研究も進め、石器や鉄器など木器を作る道具、組み合う用具との連携も深め、総合的な視角から農耕社会に首座を占める重要な役割が見えるまで進化した。その環境で入念な観察力を駆使して広く普及する鍬の付属具である泥除の研究を精緻に行い、着装の決め手となる両者の正しいセット関係を構造的、型式学的検討を踏まえて捉え、二つの系列から成ることを証明した意義は高い。これまでの土器などに依存した木製品の時期的位置づけを脱却し、斬新な機能をさまざまな区分要素から論述できており、その見通しは弥生人が未成品段階から用途として分かち、集落内でも作り分けされていた事実を明らかにした。主幹農具のこうした分類が卓見であるのみならず、弥生時代の農業労働の本質である土の移動や土壌の削平などの目的と符合し、きわめて高度化した技術体系を明確にしたものと言え、今後の木製品研究に多大な刺激と弥生社会の仕組みを考える方法論の開拓にも繋がっている。
若くしてここまでの基礎的調査が考古学の研究法を基盤として、かつ時間を費やす研究成果を早くに学術雑誌に問い、今後の学界に大きく寄与した点において、本賞を受賞するにふさわしい論攷、業績を開陳している。向後の研究展望がさらに実を結び前進することを期待して、ここに古代学賞を贈り、さらなる精励の姿勢を期待する次第である。


◇ 主な著作・論文等

・「結合構造からみた組合せ鋤の機能と地域性―伊勢湾沿岸以西を中心に―」(『考古学研
究』第63巻第1号、考古学研究会、2016年)
・「広鍬の編年―近畿地方における初期農耕社会の木器生産―」(『史林』第101巻第3号、
史学研究会、2018年)
・「弥生時代東北地方の木工技術と系譜」(『古代文化』第72巻第3号、古代学協会、2021
年)